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三郎の足の指の爪がカラフルに染まっていた。男なのに、なんてことは言わない。三郎はこういう、よくわからないことが昔から好きだったから。それに三郎は自分と違って丁寧でこういうのを塗るのがとてもうまい。てらてらと光る爪はよく見知ったチョコレート菓子みたいで、だからマーブルチョコみたいだと感想を零すと、じゃあ食べてみるかいとにやにやしながら言われた。部屋に溢れるシンナーの匂いに(もしかしたら三郎のセリフに対してかもしれないが)くらりとくるものを感じる。三郎は相変わらずにやにや笑っていて、たちが悪い。
「三郎の足なんて食べたっておいしくないでしょ」
ふいとそっぽを向いたけれど、緩やかに伸びてくる三郎の腕から逃げられないと思った。

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　昼時のファミレスはがやがやと好き勝手な言葉たちで埋まっている。それと食器がぶつかる音とか、レジの音とか。そんな音の真ん中で留三郎と向かい合ってパスタを食べる。考えるのが面倒くさくてたまたま目に付いただけで頼んだカルボナーラは茹で立てのパスタの味が強くて、くるくるとフォークで味を絡める努力をしてみる。
　留三郎は目の前でチーズハンバーグをきれいに切りわけている。留三郎のそういうところがとても好きだと思う。一口サイズにカットされたそれが緩やかに留三郎の口に運ばれる様は、ファミレスには似つかわしくないなと思った。

「僕、人と同じもの食べるの嫌いなんだ」

　味の薄いパスタをゴクリと飲み込んで、そう言ってみる。実はこれを頼む前はハンバーグを頼むつもりだった。だけど留三郎の「俺はこれかな」の一言で一気に選択肢から削除された。

「はぁ？家で食べる夕飯はいつも同じじゃねぇか」

　それ、俺に対する不満？
　きれいに眉を下げた留三郎が困ったようにそういった。そんな留三郎がかわいくて思わずキスしてみたくなるけれど、そこまで恥知らずじゃないからやめておく。

「こういうとこでさ、もったいないじゃん」

　違うメニューを頼めば、二種類の味を楽しめたりもするのだ。留三郎の切りそろえたハンバーグのかけらをぶすりとフォークで刺して自分の口元に運ぶ。ハンバーグはパスタよりもしっかりと味がついていて、だけどこちらの考えを察したらしい、呆れたような留三郎の顔の方がよっぽど魅力的に見えた。

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とろとろにとろけていきそうだと思う、丑三つ時、静かな忍たま長屋の一室。当に灯りは消えていたけれどもうだいぶ夜に慣れた目がしっかりと留三郎の顔を認識させた。ぱちくり、瞳が動いてすぅっと指先をなぞる、留三郎の熱い指先。
「溶けちゃうよ」
「溶けろよ」
笑いながら言いあった言葉が心臓すらも溶かしていくみたいだった。留三郎の指先が緩やかに腕の輪郭をなぞる。動くそばからとろけだす僕を、留三郎はどう感じているのだろう。肩を伝って首筋へ、それからあごで少しだけ進路を迷って、ゆっくりと唇に触れた。
ちゅっと音を立ててその指先に吸いついてやる。留三郎も溶けてしまえばいい。