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　孫兵の指先がまるで壊れものでも扱うかのようにこちらのふくらはぎをなぞった。彼の愛する生物たちに合わせるかのようにこちらよりもだいぶ低い温度を持つ孫兵の指先はひんやりと冷たくて気持ちいい。その温度をもっと感じたくて目を閉じる。人は五感のどこかを閉じるとそれ以外の感覚が少し鋭敏になるらしい、閉じた瞼にいったいいつの間に距離を詰めていたのか、孫兵の唇が当たる。その唇が触れるたびに生まれていく、胸の奥にたまったとろんとした気持ちを吐きだすみたいに大きく息を吐きだすと孫兵が落とした笑いが鼻先をくすぐる。

「左門、かわいい」

　ぱちりと開いた目と目が合うと孫兵はそう言った。それと同時に先ほど空気だけが触れた鼻先に柔らかな感触。視線はひどく近くでぶつかったままで、とろんとした気持ちが音を立てて胸の奥で暴れはじめたようだった。

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緩やかに留三郎の指先がこちらの頬を撫でた。頬よりも少し体温の高い指先が気持ちよくて、逆らわずに目を閉じる。「寝るのか」留三郎の声は柔らかく鼓膜を揺るがして、眠る気はなかったのに、もうそのまま眠ってしまえそうな気がした。
「留三郎、」
もねない？
口だけをもにょもにょと動かしてそう問いかけてみると、そうだなぁと笑った留三郎は伊作の寝顔が見たいから起きてるだなんて、もう本当にバカじゃないのかと思うけれど悪い気はしないのだ。

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お腹が空いたらとりあえず一口。空腹を満たすわけでもない留三郎の汗ばんだ首筋を食む。ごつごつとまではいかないが、柔らかとも言い難い首筋を噛み付かれた留三郎は｢なんだよ、盛ってんの｣と呆れたようにいう。
その声に少しの欲が含まれていることに気が付かないほど鈍くはない。別に欲情したわけではないけれど、その指先から与えられる甘さの方がきっとお菓子を食べるよりもずっと魅力的であることは確かだから｢そうかもしれない｣なんて答えてみせるのだ。

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目を瞑ってしまえばそのまま眠ってしまいそうだから、何度も瞬きを繰り返すはめになる。そんなこちらをおもしろそうに見ている留三郎が歪む、瞬きのせいで溜まった涙が一粒ころりと落ちた。｢眠いなら寝ろ｣ぐいと涙を拭われた指先の温度が心地よくてまた意識が落ちていきそうになる。

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恋をすると恋の歌を聞きたくなる。我ながらとても単純だと思うけれど普段なら顔をしかめてしまうような甘ったるい声も今は心地よく心臓を揺るがす。｢なあに聞いてるんだ｣めずらしいななんて甘い声に重なる留三郎の声はそれまで心地よく動いていた心臓をとくんと跳ねさせた。