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うしろからそろりそろりと近づいてみる。は、と短く息を吐いた木下先生はくるりと振り向いて「なんじゃ、勘右衛門」と言った。抜き足差し足の途中が見つかるのはなんというか、とても間抜けなのだけれど―えへへ、と笑ってごまかしてみる。呆れたように先生が笑うから、少しだけキュンとしただなんて相当末期症状だ。それも、嬉しいからいいのだけれど。
黙っているこちらに「用があるんじゃないのか？」と言うから、わざわざ抜き足差し足で近づいていた理由を思い出す。

「はろうぃん、って知ってますか」
「は？」
「西洋のお祭りで、とりっくおあとりーと？っていうとお菓子をくれないとだめなんですよ」

それは雷蔵と三郎が仕入れてきた話で、西洋では小さな子供たちがいろんな家を回ってお菓子を集めるらしい。だからなんだ、と言われてしまえばそれまでなのだけれど――そう、少しでも話すきっかけになるならそれでいいのだ。ぱんぱんと自らの身体のいくつかを探るように叩いた先生は「残念ながら菓子なんぞもっておらんぞ」という。本当はお菓子をくれなきゃいらずらできるのだけれど、お菓子を探す先生の姿があまりにもかわいくて急激に上がった体温が口を上手に開かせなかった。


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あれ、なんて中途半端／(^o^)＼

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今日は靴ひもがいやにほどける。しゃがみこんで結びなおす。こちらに気が付いた留三郎が呆れたようにため息をついた。｢またかよ｣そんな冷たい風を装ったって少し先で止まってくれるんだから僕って本当に愛されてるんだなんて自惚れたくもなるってものだ。

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｢またケンカしたのか｣眉をしかめた仙蔵がこちらを見下ろしていた。ひんやりとした綾部特製落し穴の中からその不機嫌そうな顔を見上げてへにょりと笑った。｢まあそんなとこかな｣｢原因はなんだ｣｢ん～目玉焼きにはなにをかけるか、かな｣｢それは先々週のケンカの原因だ｣

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「俺は普通に生きて死ぬと思ってたんだ」

　ぼそりと呟いた。夜明け前の部屋には倦怠感だけが満ちていて、吐いた息もどこか重苦しく、それから少しだけ艶っぽい。肌蹴たままの寝巻を直す気もないらしい伊作はこちらの唐突な言葉に、ふぁ？と眠そうな声で答えた。まだ赤い唇にも、鎖骨の先につけた噛み跡にも似合わない間抜けな声。
　間抜け面、と小突く。むぅ、と膨らませた頬はそれでも「どうして？」と言葉を紡いだ。さぁな、と答えると変な留三郎と笑われた。幸せな家庭を気づいたりだとかそんなふうに描いた未来の予想図が伊作の手によって変わっていったことを知らないんだろうな、と思う。