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『密やかな支配』


　冬空はしんと澄み切った青さをもっていた。日が昇ってもうだいぶ経つというのに空気は暖まることはなく、むしろ冷たさを増しているような気すらする。はぁ、と白い息を吐くと隣の先生の呼吸のタイミングと同じだったらしく、溶けあって空気に消えた。

「先生」

　心臓から送られてきたときめきをそのまま言葉にするとそうなった。自分のすべてはきっと先生につながっているのだ。ひそやかどころか、自分の血肉すべてを動かすそこは先生の支配をもうずっと受けている。先生がこちらの声にこたえてゆっくりと視線を動かす。こちらを視界にいれるとふっと微笑むのは、先生の心臓をひそやかに支配で来ているからだったらいいのになんて、少しだけ無謀なことを思う。

「帰るか」

　―先生の右手が差し出されて、その瞬間に心臓が高鳴った。


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title by 星が水没

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　合図を決めておこう。間違わないように、間違えないように。

　夕闇に消えていく道の向こうは、どうなっているのかわからない。緩やかにつないだ手から熱が伝わってきて溶けるんじゃないかと思うくらいだった。伊作の指先がきゅっと動いて、繋がって溶けあってしまいそうな指先を離そうとしたけれど、自分は離したくなかったからぎゅっと握りしめた。

「留三郎」

　その声が。
　心臓に刻み込まれているのを確かに感じる。だからきっと自分は離れてしまったとしても間違わない。

「伊作」

　だから名前を呼んで。
　合図を残すのだ、伊作の心臓に。間違わないでほしい、間違えないでほしい、まっすぐこの場所に戻ってこれるように。


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三ツ星カルテット/BUMP OF CHICKEN
この曲好き。まだ曲が強すぎて書く方に集中できてないけどｗ

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　海はオレンジ色のお日様を飲み込もうとしていた。ぽつんと座る埠頭には人はいない。以前は暴走族のたまり場になったりもしたようだけれど、最近はそんな姿も見なくなった。ただ静かに、静かに、波だけが立つ。
　なにかを忘れている気がして、こうして海を見つめているのだけれどなにも思い出せない。いや、ただ思い出したくないだけで、本当は覚えている。それでも忘れたくて、ただこみあげてくる痛みだけをとりだして、記憶の片隅に緩やかに持ち上がる遠い過去に見ないふりをした。

「―・・・・・・」

　名前を呼ぼうとして、なんどやめただろう。
　その名前はあまりにも心臓を止めてしまうんじゃないかっていうくらいに痛みを呼び起こすのに、一向に止まる気配はなかった。海が好きだと言った。だから最後にはきっと僕は海に行きつくんだよ。そんな声が聞こえてきたら、もうだめだった。
　伊作はいつの間にか俺のそばから姿を消した。まるで猫みたいに。それでも彼が海を好きだと言ったから、最後に戻ってくるのはここだと言ったから、それを信じてバカみたいにここで波を見ている。―留三郎と名前を呼んでもらえるその日を。


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Burial At the Sea/←P
←Pの歌詞がすごくすき。