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口移しで飴を一粒。
すでに留三郎の口の中でどろりと溶けだしているそれは、その見た目の青さとは裏腹にべたついて熱い。飴なんかよりも普通にソーダを飲めば涼がとれるんじゃないかと思ったけれど、なんとなくとろけだした雰囲気に水を差すような一言はお互いに言わなかった。

「伊作」

緩やかに耳に吹きこまれた息も、甘く重く、熱い。

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牛乳にからんからんと氷を浮かべると留三郎が変な顔をした。留三郎は薄くなるからといって牛乳に氷を浮かべることは嫌いらしかった。僕は薄くなった牛乳も嫌いじゃない。たまに気が付く日常での小さな差異も、いとおしくてしょうがない。

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節電の名目の元、車内の照明が消された電車は田舎のそれにしては人が溢れているのにどうしてか静かな気がした。長いトンネルを抜けるときは照明がつくけれど短いものを通るときは一瞬真っ暗になる。その真っ暗さを見逃さずに僕と留三郎はキスをするのだ。

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「土井先生っ」

聞きなれた声に振り向くと怒った顔のきり丸が目の前に立っていた。何の用だと聞こうとするとずいと目の前に紙を一枚差し出されて言葉を遮られた。あぁと思う。来年の授業料についての紙だ。やっぱり小松田君に託したのは問題だったかな、とため息をつくとそれをどうとらえたのかぐいときり丸の顔がひどく近づいた。

「なんで先生が俺の授業料を建て替えるんですか」
「お前のアルバイトだけじゃ難しいだろ」

とんとその額をつついて授業料の明細を取り上げる。けしてきり丸が払えない金額ではないのだ、だけど精一杯背伸びした金額であることに違いないそれを黙って見過ごせるほど土井もまだ大人ではない、ということなのかもしれない。
緩やかにため息をついて、まだ納得をするはずのないきり丸を見る。

「今はほかのことにも必要だろう。それがいやならアルバイト料だと思ってくれればいい」
「なんのですか」
「うちの掃除を手伝ってくれるだろう」

本当はそんなことこれっぽちも思っていないけれど、きっと納得なんかしないだろうと思って適当な理由をつけてやる。そうすると変に顔をゆがませたきり丸は「それは、だって、俺がお世話になっているから」と小さな声で言った。それからつけ足すようにそれにこんなにもらえないですよ、掃除くらいじゃと呟いた。

「じゃあきり丸がずっと私の掃除や洗濯をしてくれてもいいけど」
「……せんせ、それ、そういうのは好きな人に言うものでしょ」

呆れたような顔にお前と家族でいたいのだなんて夢みたいなことを語ったらどんな反応が返ってくるのだろう。


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書きたいことの半分もかけてないミステリ…。
いつの間にか家族だった土井先生ときり丸が好きです。