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『最も幸福な瞬間に呼吸をとめたい』



「たとえばこの瞬間に息を止めてさ」

　伊作がそう言った。白い布団を色づかせる柔らかな茶色の髪の毛は、こちらの右手を絡めとっていきそうだ。肌蹴た寝巻からのぞいた健康的な色をした胸板。こんなものに自分は欲情しているのだと、燦々と日が照る時間には考えるものだけれど、夜になれば簡単に欲情した。留三郎は男の子だなぁ。そう伊作が言ったのはいつだったか。自分たちの関係が始まった最初のころまでさかのぼろうとしたけれど、それは案外難しい作業だった。
　こちらの考えなんてまったく気にしない伊作は、その言葉とは裏腹に息を止めず話を続ける。伊作は大抵こうだった。まるでいつもと変わりないように突然話し始める。それが行為をすることへの恥ずかしさからくるのかどうか、確かめたことはない。

「そしたら、留三郎だけを想って死ねるかな」

　息が詰まるのはこちらの方だってこと、伊作は気づいているだろうか。伊作がこういうことを言うたびにどうしようもなく悲しくなる。けれど自分はその悲しみをうまく言葉にできないから「なんだそれ」と言うしかない。

「一番幸福なときに死にたいって話」

　ねぇ留三郎は？とは聞かない伊作は自分で話を振ってきたのに続きはしないの？と止まっていたこちらの手の動きの再開を要求してきた。


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title by 星が水没

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『骨の髄まで極彩色』


　繋がった手は暖かくて、左門が歌う鼻歌の乗る風の冷たさは気にならなかった。昨日から降り注いでいた冬の雨はいつのまにか上がっていて、かさかさと踏む落ち葉の音が青空に響いた。夏ならば緑で遮られる日の光も、今は緩やかに頭上を照らしていた。

「早くいくぞ、孫兵！」

　春を見つけたのだと左門が嬉しそうに笑ったその顔を、いまでもはっきりと思いだせる。なぁ孫兵、さっき私は春を見つけたんだ。孫兵も見に来るだろう？楽しそうに楽しそうに、どうしようもなく嬉しさを隠せない表情で左門は言った。寒さに閉ざされていた世界を照らすみたいに。抱きしめたいと思ったと言ったら左門はどういう反応をするだろう。私もだ！といって左門から抱きついてきてくれるだろうか。
　左門がいれば、灰色に閉ざされていくはずだった世界が極彩色に染まっていく。春が来なくたっていいのではないかと錯覚してしまうくらいだった。もうきっと、骨の髄まで極彩色に染まっているから冬なんて寒くないのだと言ったら、左門は笑ってくれるだろうか。


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title by 星が水没

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　激しさを増す雨音はもうそろそろ明けるだろう夜が去っていくのを惜しんでいるみたいだった。二人で見つめあって、ふふ、と笑った。左門の暖かな体温を抱きしめた右腕から這い上ってくる心地良さにとろんととろけていく脳みそ。

「雨、やまないな」

　左門が言う。普段は頭の上で括られているさらさらの髪の毛が布団の上に散らばっている。会計委員で鍛えられたのか、それとも寝ているときは迷子にならないのか、左門は寝相がいい。だからこうやって抱きしめて寝ることもできる。ぎゅっと左門の肩先に頭を埋めて「左門は雨が嫌い？」と聞いた。そっと見上げるとこちらのこんな甘えたなところにも慣れてしまったのか、案外普通の顔した左門がみえて少し詰まらない。こんな風に一緒の布団にくるまれるようになった頃はすぐに顔を赤くしたというのに。
　そんなこちらの考えなんて知らないだろう左門はまたふふふと笑った。激しい雨音の旋律に乗ってそれが耳をくすぐった。

「雨、好きだぞ？」

　忍びたるもの嫌いな天気なんてあってはいけないだろう。胸を張って左門が言う。その柔らかな笑みに、先ほどまで拗ねていた心が絆されていくのがわかる。惚れた方が負けだと言うが、それを認めるのは悔しいから顔をあげてその頬に軽く口づけた。

「左門を一人占めできるから、雨は好きだよ」

　雨が好きなの、お揃いだね、と笑うと真っ赤になった左門の横顔が見えた。


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昨日拍手で孫さも好きですと言ってくださった方に！
孫さもというよりさも孫なのか？という出来になってしまいましたが・・・；　孫さもの輪がもっと広がればいいのにと常々思ってます！！本当にもうこの二人は可愛くて可愛くて・・・少しでも楽しんでいただけたのならば嬉しく思います(*´∀`*)
拍手ありがとうございました！！


リンの雨音っていう曲を聞きながら書いたので雨の話なのですが、内容はその曲聞いて書こうと思ってたのとおおきくずれました。こういう曲好き！
そんなわけでタイトルはその名残です。