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朝を告げる柔らかな音がキッチンから響く。それから匂いも。つられるようにベッドから起き上がって、寝室のドアを開く。閉め切られた寝室とは違う、朝の光に満ち溢れたリビングがまぶしい。二、三度瞬きをするとキッチンからひょい、と顔を出した竹谷が「兵助、ねぐせ」と朝の挨拶もせずに笑ったからむっと膨れて、だけど慌てて頭を触る。いつまでたってもはねている個所に行きあたらず「もっと右、右」とやっぱり笑った竹谷に「はっちゃんに髪のこと言われたくない」と拗ねて見せる。
ごめんごめん、と―まだ笑ってる！―謝った竹谷につん、とそっぽを向いてから当たり前のようにソファに座ってチャンネルを回す。「あ」星座占い、12位。見なければなんてことはないのに見てしまうときにしてしまう。ため息。
そのため息をどう取ったのか、おいしそうな匂いを立てる朝ごはんを片手に隣に座った竹谷が「ごめん、怒ってる？」なんて聞いてくるから、本当はそんなことでため息をついたのではないのだけれど、ちょこっとのすれ違いがなんとなくくすぐったくてさぁ、と今度は笑って見せた。


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無理やり感／(^o^)＼

kdukiさんは、「早朝のキッチン」で登場人物が「すれ違う」、「星座」という単語を使ったお話を考えて下さい。 http://shindanmaker.com/28927

というお題でした。私の中で星がでてきたら竹くくになります。

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柔らかな月が空に浮かんでいて、クラクションの音は遠い。吐いた息の音だけが響いて消える。きっともうすぐだ、と思うのだけれど。留三郎は今、どんな人として生きているのだろう。あのころの、もうずっと昔の約束を覚えてくれているのだろうか。　
例えば今日みたいな夜。どうしようもなく留三郎に会える気がして、僕は街をうろつく。あの影や、あそこの角や。遅くなってごめん、と笑って言ってくれる留三郎を僕はずっと探しているのだ。　

「とめさぶろ、」「え？」やっと見つけたその人は僕の全く知らない表情で振り向いた。「誰、お前？」たった5文字のその言葉が耳に届いた瞬間に心の中でなにかが割れた、気がした。うまく笑えないまま「え、と、善法寺です」といったけれど彼は表情も変えない。

いつの間にか僕のことを覚えていない留三郎は当たり前のように僕のとなりにいるようになった。だけどそれはあの頃みたいな濃密な距離じゃない、友達の距離。手を伸ばして触れることを許される場所はほんの少ししかない。それでもそばにいられればいい、嘘だ、もっと触れたい。
「伊作」そうやって名前を呼ぶことがどれだけこちらの心臓を動かすか、彼は知らない。なぁに、とめさぶろう。呼んだ名前にどれだけの意味が込められているか、きっと気がつかない。こんなことなら再会なんてできなくてもよかった、そう思うのに留三郎の傍を離れられない。
緩やかに安心しきった顔で寝息を立てる留三郎は本当にずるい。今の彼に怒るのは筋違いかもしれないけれど。あのころと変わらずに、寝相は悪いけれど寝付きはいい。「ねぇ、留三郎」そのあとに続くはずだったたった五文字の言葉は、留三郎が寝ているときにですら言えないのだ。

「俺さ、ずっと好きな子がいるんだ」「へぇ、そうなんだ」どんな子、なんて聞いてないのに留三郎は話を続ける。「―と、いっても夢の中でしかあったことないんだけど。いっつも不運でなにかやらかすんだけど、いつも笑っててすげぇかわいい・・・って伊作、なに泣いてんだ？！」
「・・・っ、なんでも、ない・・・っ」「なんでもないわけないだろ？おい伊作？」伸びてきた指の優しさはあの頃と寸分たがわない温度を持っているのに今の僕にはまだこの指に甘える資格はないのだ。それでも―それでも今なら、好きと言っても許されるのだろうか。
「そこまで思い出しといて、どうして気がつかないの？」ぼろぼろ、ぼろぼろ。涙が頬を伝う冷たさなんて気にならなかった。「え、だってあれは夢で」「じゃあどうして好きな子だなんていうの」「―伊作？」「気がついてよ留三郎」ぎゅっと彼の服にしわをつけた。涙は止まらない。
「じゃあ、あれは」「ずっと、留三郎が思い出すの、まってたんだよぉ、おそいよぉ、ばかぁ」呆然と言った表情の留三郎は涙でかすんであまり見えなかった。ただ「ごめん」と耳元で囁いたその声にひどく安心して、結局泣きやむことなんてできなかった。

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探しに行こうよ、と雷蔵が笑った。私は少し不機嫌そうに眉をしかめる。目の前でその、こちらの表情にころころと笑った雷蔵は「だって会ってみたいじゃない」といった。
世の中には自分とそっくりの顔をした人間が自分も含め3人いるらしい。私には雷蔵がいるから、この説にのるともう一人、同じ顔をしたやつがいることになる。なんとなくそれはひどく癪だな、と思って「別に私は会いたくないし」と唇を尖らせてみる。
雷蔵と一緒だなんて、私だけで十分なのだ。