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くだらないと言い切ってほしかった。留三郎の双眸の中で揺れる自分は自分でもわかるくらいに動揺している。好きだなんて一生言うつもりなかったのに。ぽろりと落としてしまった言葉はもう喉の奥にはひっこんではくれない。
留三郎を好きになったのはいつくらいだったのだろうか。もうそれは思い出せないほど曖昧なのだけれど、確かに留三郎のことを思う気持ちがこの胸に存在している。だけどそれを言葉にするつもりはなかった。卒業して、お別れして、忘れて。そうしていつか留三郎のことすら忘れてしまうのだと思っていたのに。
留三郎の瞳ははたしてなにを思っているのかわからない。それは六年間積み上げてきたものががらがらと音を立てて崩れてしまう気がして、慌てて違う言葉を探す。

「あの、冗談、」

言い訳をしようとした唇の動きはなぜか留三郎の唇によって遮られた。


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くだらないといってほしいのは私なのかもしれませんが。

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うつらうつらとまどろむ長次を、珍しい思いで眺める。日当たりのいい長屋の廊下、どたばたと走る足音がたまに床を揺らすけれどそれ以外はひどく静かだった。こちらの膝に頭を預ける長次の寝息がだから、よく聞こえる。

「くすぐったいなぁ」

呟いてみる。わかっているのかいないのか、長次の頭がごろんと動く。そうするとそのさらさらとした髪の毛がこちらの膝をくすぐってなんだかとてもむずがゆい気分になる。こんな膝硬くて疲れるだけだろう、そう思うのにそうは言えないのはこの役目を他の誰かに渡すなんてまっぴらごめんだと思っているからだ。
そっとその髪の毛をすくいあげてすきだなぁと呟いた。―やっぱり聞こえているらしくて、慌てたような咳ばらいが聞こえたから笑ってしまった。


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タヌキ寝入り長次。

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そばにいるだけで幸せになるなんて、すごいことだと思う。そんなことを思いながらぱたぱたと足音を立てて先生の後ろを歩く。先生は上背があるわけではないのだけれど、やっぱりがっしりしていてその背中はずいぶんと大きく見えた。必死で追いかけた幼いころと比べればその差はだいぶ縮まったはずだけれど、それでも先生の背中を見ると思うことは「その大きな背中に飛びついてもいいのかな」なんてことだから自分の先生への愛を毎回再確認させられる。

「おい、勘右衛門」

お前、いつまでついてくる気じゃ。
先生が困ったようにそんなことを言う。

「先生が行くところです」

だめですか、と小首をかしげて聞いてみると、さらに呆れたように先生がため息をついた。―そんな風に優しいから、つけあがるんですよ、と思ったけれどそんなことは言わないでおく。


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タイトルは前述の雪洞と鬼灯の歌。