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今日は嘘をついていい日らしい、そう小平太が言った。ごろりと寝転がって、頭はこちらの膝を枕にしている。なにがいいたい、と頬にかかる邪魔そうな髪を避けてやりながら聞くと「長次はどんな嘘をつくんだろうなーと思って」とどうしてか拗ねたように言う。なぜかむすぅと膨れた頬に困ったように視線を返すと、ふいとそっぽを向いて、「下級生のためだとはいえ、長次は私にだって真顔で嘘をつく」とどうやらいつかのオリエンテーリングでのことを気にしているらしかった。

「もう、お前にはつかない」

そういったところで機嫌は直らないだろうけれど、本心からそう思っている。くだらない嘘をつくよりももっと簡単に小平太を負かす方法を、自分は知っているのだから。


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じみーに思い出して拗ねてるとかわいいなと思います。

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留三郎のキスはいつだってほろ苦さを含んでいる。コーヒー豆をそのまま噛んだときのような味。舌先を味わうように絡めとられているのは自分の方なのだけれど、その間じっくりと留三郎を味わっているのはお互い様だと思う。満足したのかちゅっと音を立てて離れていく留三郎の唇とこちらの唇との間に伝わった銀の糸。
間抜けな気がして笑うと糸は揺れて切れた。それを見つめる留三郎の瞳は獲物を見つけた獣の色だ。

「留三郎のキスは苦いね」

甘党なのに不思議だね。そういうと留三郎はくくっと笑った。もう一度、今度はかすめるようなキス。

「伊作の味がうつったんだよ、キスしすぎたから」

お前こそ甘いの好きじゃないのにキスすると甘いって、知ってる？耳元でささやかれた甘さを含んだその声が身体じゅうにそっと浸透していく。きっと甘いのはキスのせいもあるだろうけれど、それ以上に留三郎の甘い声が体内に蓄積された結果なのだと思う。

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『心を食べてしまえたらいいのに』


ぱくりとその指先を口に含んだ。ほのかな温かさと、人間の味。上目遣いで噛みついた相手を見ると困ったような顔をしている。少しだけ心臓の音が高まった。

「そんなとこ食べてもおいしくないでしょ」

孫兵の食べられていない方の指先がゆっくりとこちらの頬をなぞって、唇に行きつく。これはこちらの指もと食べていいよということなのだろうか。そう思って行動に移そうとするよりも少し早く、孫兵がその指先を遠ざけてしまったから結局こちらの口の中に残るのはその右手の人差し指だけになった。噛み痕をつけるように指先を噛んで口を離す。

「心まで食べてしまえたらいいのに」

そういうとやっぱり困ったように笑う孫兵は、じゃあ僕は左門の心を食べてしまいたいよという。きっとこちらがどんな思いでそんなことを言っているのかわかっていないのに、だ。
噛み痕のついた指先がこちらの頬に触れた瞬間、額に唇が落ちる。それはどうしようもなく優しいのに、時折その優しさを見失ってしまうのだ。だから、心ごと食べてしまいたい。そうすればその優しさも何もかも全部自分のものになるのに。


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title by 星が水没