＊

ひんやりとした伊作の手が背中にそっと触れる。ゆっくりと肩甲骨を確かめるように撫でて、そうして背筋を伸ばしていくかのように人差し指がすべる。その感触にびくり、と肩をすくめるとふふっ、と伊作が笑いを落とした。

「一年生がね」

こうやってやると寿命が一年下がるんだーって遊んでたよ、とまた背筋に沿って人差し指を上から下へと滑らす。あぁそういえばしんべえと喜三太がきゃらきゃらと遊んでいたっけ、と今日の委員会の様子が頭をよぎった。いちいちに騒がしい彼らを叱るのはもはや自分ではなく、三年生の富松の役目で、そんな様子をほほえましいなぁと思いながら眺めていた昼間の自分を思い出す。

「寿命ねぇ」

呟いたこちらにかわいいよねぇ、と返した伊作がどんな表情をしているかは見えなかった。自分たちのような生き方をしている限り天寿を全うするだなんて難しいことだなんてお互いにわかりきっている。今さら一年や二年減ったところで、―伊作に減らされるんだったらそれでもいいやと思った。

＊

聞きなれたメロディーが耳元で鳴っているからぬるい眠りから少しずつ目を覚まして手探りで音の出所を探す。暖かい布団の中とは対照的に冷たいケータイ電話を探し当て、寝ぼけ眼で液晶を見る。

「へーすけ？」

メール一件とともに表示された名前は別に珍しくもない人だけれど、こんな朝からメールをしてくるのは珍しい。目にしみる光に何度も瞬きをしながらケータイを操作、メールを開く。

「あ？」

口をぽかんとあけてもう一度読み直す。むねがふくらんだ？どう読んだってメールの文章にはそれしか書いていない。なんだそれ、と口に出して呟いた。返事のしようがなくて返信画面を開いたまま固まる。どうしようとやっと朝に慣れた目であたりを見回すと壁にかかったカレンダーを見つけた。3月―いや、4月。変わっていないカレンダーと新しい月が来たことを思い出して、そうしてやっと合点がいく。―迷わず、電話にする。

『もしもし？』
「三郎か？」
『―なんだもうばれたの』

電話先で楽しそうに久々知が笑った。


＊
力尽きた＼(^o^)／　ううう文体がまた揺らいでる。
久々知は鉢屋に「竹谷にこーゆー嘘つきなよ」って言われたっていうそれだけのお話です。ちなみに鉢屋は雷蔵に対して嘘をついて三倍くらいで返されて傷つくタイプだと思ってます。

＊

今日なら、言えるだろうか。

どきどき、痛いくらいに心臓がなっていた。もしかしたら病気なのかもしれないなと思うくらいに飛び跳ねている心臓は後ろで立ち止まった足音に余計に大きくなっていった。

「左近？」

足音の主が不思議そうにこちらの名前を呼ぶ。今日はうそをついても許される日なんだよ、変なこと考える人もいるもんだよねーと笑った伊作先輩の顔がちらり、と頭をよぎった。そう、今から言うことは全部うそで、だから簡単に言えるはずだった。

「こんなところでなにしてるんだ？」

三郎次がこちらの顔を覗き込む。その瞬間、言おうと思っていた言葉なんて飛んで行ってしまって、結局出てきたのはいつも通りの無愛想な答えだけだった。


＊
嘘だよ、って言えれば好きだって言えるかもしれないと思ったのに。