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『双子の幸福』


　視線をからませて、そうすれば言葉なんていらなかった。
　自分たちのことを指して後天的な双子だと言ったのは誰だったのだろう。確かに自分は雷蔵とそっくり同じ顔をして、雷蔵であることを心掛けてはいるけれども、毎日毎日、雷蔵にはなれないことに気づかされているのだ。その笑い方、話し方、どれだけ真似してもどこかたりないのだ。そういったら雷蔵は「そんなとこまで似せなくていいよ」と笑ったのだけれど。
　
「ねぇ、雷蔵」

　それに双子はお互いの考えていることが分かるという。私には雷蔵の考えていることはわからないときばかりだ。雷蔵もそれは同じだろう、時折「お前の考えていることはさっぱりわからない」と困ったように口にするから。それでも、そう。呼びかけに雷蔵が「なんだい、三郎」とこちらを見る。視線をからませれば、もう言葉なんて二人の間には必要なかった。ゆっくりと指先もからませて、どちらからともなく微笑んだ。
　もしかしたら自分たちはとても幸せな双子なのかもしれない。


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title by 星が水没

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大学で一番大きな講義室のスクリーンには外国の映画が映し出されている。映画の展開に合わせてたまに騒めく受講生が、スタンド上に作られた講義室の一番上にいる自分からはよく見えた。
まあ、当たり前のようにこちらの隣を陣取った竹谷はすでに夢の世界のようだけど。すーすーと安らかな寝息は周囲の静寂を壊さない程度で、寝言の一つでもいうかと思って耳をすませてみるけれど、5分たっても静かな寝息だけが耳をくすぐってなんともいえない気分になるのでやめた。
授業中だぞ、と起こしてやってもいいのだけれど、お互いただ一つくらい一緒の教室で受けたくて取った単位とは関係ないコマだからほうっておいてやる。
ふと普段の授業でもこうなのかと思うと、少しだけ複雑な気分になった。学部が違うから同じ授業なんて教養科目くらいしかとれないのは当たり前なのだけれど、竹谷の右隣に女の子がいるかもしれないと思うと少しだけ胸が痛んだ。
それでも、誰にも気が付かれないように机の下でこちらの左手と緩やかに繋がった竹谷の右手は自分だけのものだ。少しだけその手に力をこめる。条件反射のように力がこもった右手と、小さく落ちた「兵助」の声にあわてて辺りを見渡したけれど、ちょうど映画の盛り上がる場所だったらしい、ざわりと揺らめいた空気にまぎれて自分以外の誰かに届くように消えたようだった。

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映画史みたいな授業ですかね。

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「君の指に甘える」



　かぷりと噛んだ指はひどく甘かった。なに？そんなことをされても怒らない留三郎の声は甘ったるく耳をくすぐった。噛まれていない方の指先が読んでいた本を置いて、こちらのあごの下をまるで猫をあやすように触っていく。その指先から伝わる体温すら甘い気がして、どろどろに溶かされていく。留三郎はどうしてこんなに甘いのだろう、そんな風に思う。

「ねぇ留三郎」

　とけちゃいそうだよ。
　そういう。だから留三郎も一緒に溶けてよ、と続けようとした言葉はその甘い指先が唇を塞いできたから言えなかった。含まされるままに舐めた指先にはいつの間に手に取ったのだろう、どろりと甘いチョコレート。この眺め、ちょっとそそるかも、と留三郎が言う。
　留三郎の甘さでどろどろに溶かされた僕は、もう元の形には戻れないかもしれないと思うのだ。


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title by 星が水没

君の指に甘えてるんじゃなくて君の指が甘くなってしまった