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｢泣きたいなら泣けばいい｣
左門は至近距離でこちらの瞳を半ばねめつけるようにそういった。そのせいで余計、つんと瞼の痛みがせりあがってきたけれどそれを誤魔化すように笑う。はらはらと零れ落ちた握り締めていた花たちが二人の間に柔らかに敷き詰められていく。
｢だってこれ以上泣いたら左門がいなくなったときに流す分がなくなっちゃうよ｣
｢私はいなくならないぞ、変なことを言うんだな、孫兵は｣
そう絞り出した言葉に対して、心底意味がわかっていないらしい左門の返答にやっぱり苦笑いが漏れた。いつだって目の前から消えていくのは左門の方だということ、気がついているだろうか。
天に召されていった虫のために用意したはずの花たちは、もうとっくに地面に落ちきってしまっていた。空になった指先に左門の指先が緩やかに絡む。
「じゃあずっと手をつないでいればいい」
そうすれば孫兵の前からいなくならないだろう？
名案だ、と左門が笑う。きゅっとその指先をこちらからも握れば今度はとろけるように笑った。きっと左門は、ずっと気がつくことはないのだろう。繋がった指先を握り直してくれるのも、それから離すのも、左門の方からだということに。

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「キスしたら止まるんじゃない？」
まったく根拠もないだろうけれど、なぜか自信満々の瞳で伊作がこちらを見ている。は？と聞き返そうとしたけれど、残念ながらそれはこみ上げてきた横隔膜の痙攣により阻まれてしまった。そんなこちらを楽しそうに見た伊作は、するりとこちらのすぐ近くまで来て、雰囲気とは不釣り合いな妙に柔らかな笑みを浮かべた。
「お前のキスじゃ今更驚かねぇよ」
「だって息止めろって言うじゃない」
だからキスしようよ、と言った伊作に答えようとした言葉は、今度は横隔膜の痙攣ではなく伊作の唇に阻まれてしまった。


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食伊ですよ！

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いつもなら簡単にその指先を絡めることができるのに、それができないのは普段ならば硝煙と土の匂いにまみれているはずのその首筋から、柔らかな女の香りがするからだ。白粉、頬紅、口の紅。同じように忍術学園で女装の授業を受けているからには、自分だって一通り使いこなせないわけではないのだけれど、それでも兵助のそれには遠く及ばないな、と思う。白い首筋に少しだけ残ったおくれ毛がゆるゆると這っている。
いつもなら意識しないはずのそれが、目に入る。それだけで触れ合う指先に心臓がばかみたいに跳ねるのは、問題でしかない。
「……はち」
いつも通り、に。
兵助の声だって震えていること、気がつかないわけではない。
授業なのだから、普通ならば冷静でいるはずの兵助なのに、恋仲になってからはじめての女装の授業は、散々な結果になりそうだった。