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三杯目のコーヒーは先ほどよりもだいぶ濃い味がした。
ぺちゃくちゃと喋り続けるテレビはすでに頭には入ってきていない。まぁもとよりほとんど聞いてなどいないのだけれど。テレビの音に混ざる微かな水音は留三郎がシャワーを浴びている音だ。遅くなるから先に寝ててとメールが来たのはもう6時間も前だ。現在の時刻、〇時二十五分。時計の針が示す時刻に大きくあくびをしたけれど実際のところは全く眠くなかった。

「―……まだ起きてんのか」
「留三郎のこと、待ってたんだけどー」

シャワーを浴び終えた留三郎の髪の毛から滴がぽたりと落ちる。水も滴るいい男だなんてよく聞くフレーズだけれど、水が滴ってなくてもいい男の留三郎は水滴をぽたぽたと垂らす今余計にいい男に見えた。

「コーヒー飲み過ぎて今夜は寝れないかも」

意味ありげにそういって笑うと留三郎がくしゃりと笑った。あ、こんな顔もかっこいいなんて未だに跳ねあがる心臓。近づいてくる留三郎の指先がこちらの頬をとらえて、「じゃあお望み通り」なんてキスを一つくれた。

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　さわやかな風が吹き抜けて、雨上がりの空にまだ残っていた雲を一掃していく。徐々に広がってくる青空は湿った空気なんて全く知らないかのようにからりとしている。
「留三郎、喜んでいいよ」
　久々に開け放した障子から迷い込んでくる気持ちのいい風を受けながらたまった用具の修理をしているとぱたぱたと見慣れた背中がいくつか、大荷物を抱えて走っているのが見えた。自分たちとは違う、目立つ髪色なのに影の薄い緑装束、青装束にさらりと黒髪、それから井桁模様が二人。そのあとにもっとも見慣れた後ろ姿を見つける。ほぼ同時に伊作もこちらを確認したらしい。嬉しそうに走りよってきてそんなことをいう。
「･･･洗濯ができるから怪我しても平気だって？」
　どこか犬に似たその瞳に苦笑しながらそう返すと、どうしてわかったの？と心底驚いた顔で言う。そりゃあ両手いっぱいに使い古しのふんどしを持っていればイヤでもわかるのだけれど――。
　せーんぱい！と遠くで呼ぶ声がするから伊作があわててくるりと振り返る。じゃあもういくね、という横顔に「雨、また降らないといいな」というと「不吉なこと言わないでよ」と怒られてしまった。

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藪をつっ切ろうとしたらくいと頭を引っ張られる感覚。どうやら木の枝に髪を引っ掛けたらしい。むぅと頬を膨らませてそのまま無理やり進もうとすると今度は肩から止められた。顔を向けると呆れた顔をした長次と目があって、「ばかか、少し止まってろ」といつもどおりのもそもそとした声で言われる。はらりと枝から髪の毛を救出した長次が「そんなに邪魔になるなら切ればいい」といったからせっかくほどいてくれた礼を言おうとした唇が止まってしまった。代わりに足をげしりと蹴りつける。この髪が好きなのだ、と言ったのはどこの誰だと思っているのだ。だから切れないのだなんて、女々しすぎて口に出すことはできなかったけれど。