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「・・・どうしたの三郎？」

ひどく不機嫌そうに三郎がばたんと鞄を置いたから読んでいた雑誌から顔をあげてそちらをみた。なるほど、行為にふさわしく不機嫌そうな顔。
僕と三郎は幼いころからの友達で、そうして親戚だ。顔もよく似ていて、たまに双子なんかと間違われるくらいの。僕から言わせると三郎と僕は全く違うような気がするのだけれど、友人に言ってみたところ「あー雰囲気？」の一言で片づけられたという苦い思い出がある。まぁそれはどうでもいい。

「べつに」

がたんどん、ばしん。荒々しい音を立てて冷蔵庫からビールを取り出す。あ、それ僕なのに。と思ったけれどこういうときの三郎になにかいうとひどくめんどくさいから口を閉ざす。なにがあったの、なんて聞かなくたってわかっていた。あの先輩、がらみだろう。ずっと二人でいた僕たちに亀裂を生んだその人。嫌いではないし、むしろ好ましいとも思うけれど―それでもうらやましいと思う気持ちは消せなかった。

「―ほんと、ずるい」

ぼそり、と三郎が呟いた。その目はこちらを見てはいない。三郎だってずるいよ、と思ったけれど口になんて出せないのだ。

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(鉢雷)

「三郎はずるい」「は？」ごつん、雷蔵の頭突きは背中に向けて。頭突きというには軽すぎるそれを甘んじて受ける。聞き捨てならないのはむしろ言葉の方だった。「私のなにがずるいって？」理由がわからず聞くと三郎はどんどんかっこよくなっていってずるい、だなんてまったく予期しない言葉をかけられた。


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(文仙♀/私の分だけ)

目の前に現れたその男にふん、と顔をそらした。くっきりとした隈に見覚えがある。「おう、この前は大丈夫だったか」なんて気軽に言うから「当然だ」と返す。その間顔は見ない。にやにやしている伊作と目があったが断じて照れているわけではない！

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はいあーんと差し出されたそれを拒むことなく口に含む。「甘いな」そう言うとだってケーキだものとからからと伊作が笑う。「さっきの、こないだの飲み会の人だよね？」伊作が楽しそうに聞くから「どうやらそうみたいだな」とそっけなく返した。別に照れているわけではない。

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(食伊)

正直どうだっていいんだ、と騒がしいテレビから視線を離さずに伊作が言った。なにが？と伊作の横顔を見ながら聞き返す。画面の中ではいついつには世界が滅びるだとかそんなこと。苦笑を落とすみたいに笑った伊作は別に明日世界がなくなっても構わないんだ、もう留三郎に会っちゃったしと言った。

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酔っぱらいのキスはひどく苦い。僕、ビール嫌いだって言わなかったっけ、不機嫌そうに言ったのになぜかにやにや顔の留三郎は何もいわずにもう一度その苦い唇を押しあててくる。舌までいれたそのキスを終えると伊作のキスは口直しにもってこいだな、なんてそれ誉められているように思えないんだけど。

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かわいらしく寝息をたてる伊作の、なめらかな喉を撫でた。起きろよ伊作。猫ならばごろごろと鳴きそうなそれを、猫ではない伊作は身じろぎしただけ。その様はかわいいけれど時間はないので、おい、少し荒めに声をかけると薄目でこちらを見た伊作が留三郎がキスしてくれたら起きる、だなんて本当にもう。

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いつかこの手を離したら、忘れるんでしょう、と伊作が言った。そうして僕も留三郎を思い出にしてしまうんだ、と悲しそうに。一生一緒だとかそばにいるからなんて取ってつけたような言葉はきっと伊作には届かなくて、ひどく悲しい気持ちのまま「じゃあさよならするか？」と聞いた。

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雨の匂いがする、と留三郎が言った。空は重苦しく灰色、風は言われてみれば湿っぽい。ほんとだ、早く帰らないと。早口で答えた。本当は雨の匂いなんてわからないのに。じゃあ走るか、こけんなよ伊作、といって右手を絡めてきた人の感じる世界を感じられないのが悔しいから、わかっているふりをした。