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『まえを見据えるまつげの脆さ』


　俺、先生と一緒なら平気だよと勘右衛門は言う。甘やかに、軽やかに。そのたびにどうしたらいいのか分からなくなるのだと言ったら勘右衛門は幻滅するだろうか。それならそれでもいいのだけれど。
　先生と生徒だとか、それ以前に忍びだとか。
　自分たちのあいだに立ち塞がる壁を勘右衛門はいつも簡単に飛び越えてくる。先生がそこにいるんだったら、俺は平気だよ？そんな優しいことを言う。ばかもんと突き放してしまえばいいのに、どうして突き放せないのだろう。ゆるゆるとこちらの肩に寄り掛かる勘右衛門の髪を撫でた。さらり、落ちる。
　まつ毛を伏せた勘右衛門はこちらの指先に何を思うのだろう。ふるり、とまつ毛が震える。先生ずっと一緒にいようね、と笑う。その、未来を見据えるまつ毛の脆さに、心臓が撃ち抜かれてしまいそうだった。


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title by ultramarine/∞=

勘ちゃんにほだされまくりの木下先生。

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『あのうそを覚えてる？』


　どれだよ、と留三郎が笑った。あれだよあれ、と言ってみる。僕たちの間にはたくさんの嘘があるから、きっと留三郎にはどれのことかわからないだろうけれど、自分から詳細を話すつもりはなかった。

「ねぇ、あの嘘を覚えてる？」

　僕が言うのはこれだけ。実は僕だってあの嘘がどれをさしているのかなんて考えていない。些細な嘘から、少しだけ重大な嘘まで。僕と留三郎の間にある嘘で、留三郎が覚えているものが「あの嘘」なのだ。そんなことは知らない留三郎は、伊作の嘘なんてたくさんありすぎてわかんねぇよとやっぱり笑うのだ。

「じゃあ、嘘じゃないのはどれだと思う？」
「俺を好きなことだろ？」

　そう即答してくる留三郎のにやけ顔にバカじゃないのと言ってやった。まぁ確かに、万に一つの本当ともいえることを留三郎はいとも簡単に当ててしまうのだ。


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title by 星が水没

こういう意味のわからん会話する食満伊が好きです。

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『双子の幸福』


　視線をからませて、そうすれば言葉なんていらなかった。
　自分たちのことを指して後天的な双子だと言ったのは誰だったのだろう。確かに自分は雷蔵とそっくり同じ顔をして、雷蔵であることを心掛けてはいるけれども、毎日毎日、雷蔵にはなれないことに気づかされているのだ。その笑い方、話し方、どれだけ真似してもどこかたりないのだ。そういったら雷蔵は「そんなとこまで似せなくていいよ」と笑ったのだけれど。
　
「ねぇ、雷蔵」

　それに双子はお互いの考えていることが分かるという。私には雷蔵の考えていることはわからないときばかりだ。雷蔵もそれは同じだろう、時折「お前の考えていることはさっぱりわからない」と困ったように口にするから。それでも、そう。呼びかけに雷蔵が「なんだい、三郎」とこちらを見る。視線をからませれば、もう言葉なんて二人の間には必要なかった。ゆっくりと指先もからませて、どちらからともなく微笑んだ。
　もしかしたら自分たちはとても幸せな双子なのかもしれない。


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title by 星が水没