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『君が息をしている奇跡』


　吸って吐いて、吸って。そんな動作を繰り返す胸を何も言わずに見ていた。飾り気のない青い装束が呼吸にあわせて上下する様。こちらの視線に気がついた雷蔵が困ったように笑った。

「なにかついてる？」

　そうしてその笑顔とおそろいの困ったような声音でそんなことを聞く。緩やかにその音を伝えてくる空気を吸って、吐きだすのはもったいないから胸の奥深くにためた。―まぁ実際そんなことできるわけないから、たまっていればいいなっていう妄想だけれども。

「雷蔵が息しているのを見てた」
「・・・なにそれ」

　楽しいの？と聞くからとってもと答えてやると三郎は本当にへんだねぇと今度は屈託ない柔らかな笑いを落とした。そうして笑い顔を隠すために俯いた視線をもう一度こちらにやった雷蔵は何を思ったのかこちらに腕を伸ばして、ぎゅっと抱きついてきた。

「―・・・あの、雷蔵？」
「見るより聞いている方が安心できるんじゃない？」

　そんな幼子のような理由ではないのだけれど、この体温を手放す理由なんてどこにもないから抱きしめられるままに雷蔵の鼓動の音を聞いていた。


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title by 31D

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　冷たい空に息を吐いた。兵助が隣で笑って、それからこちらと同じように空を見上げた。「寒い」そういって伸びてきた指先がこちらの指を捕らえる。夜空にはきらきらと星が数えきれないくらいに輝いていて、もしかしたら零れてくるんじゃないかと思えてしまうほどだった。

「もし」

　もし流れ星が流れたら何を祈る？言おうと思ったけれどやめた。流れ星にかなえさせてやる兵助の願いなんてなにひとつないのだ。

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　お昼時の学校内はざわめいていたけれど、人の集まる学食から少し離れた部室棟ではもうどこか遠くの世界で話されている言葉のように、小さく意味をなさなくなった。お昼ごはんも食べて机に頬をつける。伊作は携帯をいじりながら小さくあくび。釣られるように自分もあくびをした。緩やか、眠気。
　それは外気とは遮断された部屋の籠もった空気のせいでもあるし、突っ伏した机の冷たさが心地よいせいでもある。だけど一番の原因はこちらの髪を弄ぶ伊作の手だろう。

｢なんだ寝ちゃうの留三郎｣

　言葉とは裏腹に柔らかな声の伊作の言葉も段々遠くなる。おやすみのキス代わりの軽い目配せ。