＊

　おしゃれなカフェテラスに、あまいショコラ。心臓は指先でぎゅっと握った、綺麗に包装したチョコレートを溶かしてしまうんじゃないかと思うくらいに熱を上げる速度で動いている。緊張のせいでかいつもより早く起きたから、服装にも気合を入れたのだけれど、街を行く女の子も男の子もまるで今日が勝負とばかりに着飾っていて、結局いつもとそんなに変わらないんじゃないかと思う。はぁとついたため息は甘いショコラに沈んで、柔らかな茶色に染まっていく。

「勘右衛門」

　波紋を数えるようにカップの中を見ていたら突然声をかけられたから慌てて顔をあげる。目があった瞬間、先ほどのどきどきなんて目じゃないくらいに心臓が跳ね上がるのは仕様だ。

「あ、先生」
　
　出来る限り平静を装ったつもりの声は、やっぱり上ずっていた。ぎゅっと手のひらで弄んでいたチョコレートの袋をつぶしそうになる。どかりと前の席に腰を下ろした木下先生は、すぐにやってきた店員にホットコーヒーを注文しているのを、なにも言えないまま見ていた。
　おかしい、計画は完璧だったはずなのに、その肝心の計画が頭の中でばらばらになってしまっている。指先に感じる、こちらの熱がうつって熱くなったチョコの袋を一体どのタイミングで渡せばいいんだっけ。


＊
tete-a-tete/OSTER project
この曲やばいかわいい・・・！！そしてやっぱり言葉選びがすごい。

＊


　消えていく、とわかっていた。
　だからそっと目を閉じた。忘れてくれていいと思った。幸せに笑っていてほしいと、ただそれだけを願って消えていくその体温からゆっくりと手を離した。

　さきほどまでの柔らかな布団の感触は消え、冷たい夜露が指を伝った。ゆっくりと目を開ける、街の明かりなどない漆黒の空に浮かぶ星が目に入る。どうやら無事に元の世界に戻ってこれたようだ。―無事なのかは、わからないけれど。

「へいすけ」

　呼んでみたけれど、もちろん答える声が返ってくるわけはなかった。痛む心臓を無理やり抑えて、よっこらと立ち上がる。空気も、空も、音も、何もかもが先ほどまでいた世界と違う。あまりにも圧倒的なその差に一瞬兵助のいる世界にいたことは夢なんじゃないかと思うくらいなのに、痛む心臓がそれを否定している。
　離れる瞬間は、もう会えなくてもいいと思った。忘れてほしいと思った。それなのにいまは会いたかった。ただ。忘れてなんか欲しくなかった。ただひたすらに。
　星空はただ悠然とそこにあって、それすらも兵助と眺めたものとは全く違う。彼の見ている星は、どのくらいあとの光を放っているのだろう。―違う星空でもよかった、夜のはざまに消えていく恋をそっと照らしてくれた光をどうか覚えていてくれれば。何千年先でもいいから、どうか兵助の元にこの気持ちが届けばいいのに。


＊
アストロ/←P

室町竹谷×現代久々知ももっとこう、しっかり練り込んで書きたいなぁ。
この曲は、以前拍手の竹くくにもつかったんですが、まじ竹くくだと思います。

＊

　うたんうたんとあまりリズミカルとは言えないリズムを刻む時計を見た。9よりも上に行けない秒針。どうやら電池が弱くなっているらしくて上まで行きつけないらしい。半分から上にはもうのぼれない。何度も何度も同じ場所でリズムを刻むことを繰り返すだけだ。まるで裏拍をとるかのような音を立てている。

「電池かえないと」

　そう言ったけど留三郎からの反応は薄かった。うたんうたんと刻むのはだんだんと世界の音からずれていくリズム。まるで世界に置き去りにされているかのような感覚になる。留三郎、そう呼ぶとこちらを見て、意味もなく笑った。あぁ、留三郎と一緒なら世界に取り残されたところで問題はないのだ。