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あのね、蝶が死んでたんだ。孫兵がいった。淡々とした人間味のない音が緩やかに鼓膜を揺らしてはぜた。孫兵の指先はこちらの首にかかっていて、だから唾を飲み込んだこともばれている。髪の毛がさらりと頬を落ちて、こちらを押し倒すような格好をした孫兵の顔をさらに暗く彩る。
｢まごへ、｣
｢いつか左門もああやって僕を置いていくの｣
そんなことないって言えても孫兵はさみしいままなのだ、だからなにも言えない。冷たい指先から伝わってくるさみしさに、泣いてしまいそうだった。

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休日の過ごし方は大抵決まっている。よっぽどのことがない限りソファの上から動かない。時折コーヒーをいれる為に立ちあがる竹谷の背中を背もたれにして、なんとなく表紙買いをした小説をなんとなく読み流す。お話の内容なんてほとんど頭に入ってこなくて、ただ心を占めるのは竹谷のその温度だけだった。
竹谷は竹谷で三郎から借りてきた漫画を読破すべく足元に塔を作り上げている。こつんと竹谷に少し体重をかけるけれど、そのくらいなんてことないらしい竹谷はただ熱心に漫画を読んでいる、どうやらよっぽど気になる内容らしい。スポ根ものは読めば面白いのだろうけれど、その熱さにやられてしまうからあまり積極的には読まない自分とは大違いだと思う。
足のつま先にたまった疲れをほぐすように思いっきり伸ばす。そうすると余計に竹谷に体重がかかって、今度こそ少しだけ竹谷が沈んだ。なんだよ兵助、やっとこちらを気にした竹谷の顔を無理やり首をまげて見つめる。たぶん、自分の頭がソファに柔らかく吸い込まれて、それから唇が竹谷のそれと重なるまで、あともう少しだ。

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口の中が荒れていた。たぶん舐めすぎた飴のせい。色とりどりの袋に包まれたそれは、口淋しさを埋める甘さからしだいに淋しくなるだけの痛みに変わる。捲れた口の中に舌で触ると血の苦みが走った。留三郎のキスは、こんなに苦くない。やっぱり飴なんかじゃ代わりにはならないのだ、ずっとわかっていることなのに。
触ってはいけないとはわかっている傷をまた舌でつついた。今の留三郎と自分の関係に似ている気がした。出来るべき場所ではないところに出来てしまった傷が原因で僕たちは何度でも喧嘩をする。くだらないとわかっているのにどうして。口の中から全身をえぐるきんとした痛みに眉をしかめて全部留三郎のせいだと呟くと、心臓まで痛みが到達してしまった。